メディア向け「共同親権」に関する報道についてのガイドライン(第1版)
ちょっと待って共同親権ネットワークとして、「共同親権問題」を扱う報道関係者の皆さんに是非、ご留意いただきたいことがあります。
私たちが痛感しているのは、「一方の当事者」のみに取材して裏付けを欠いたまま報道される事例が多いということです。
そして、DVや虐待の実態をとらえていない報道も少なくありません。
誤った報道により被害者が逃げ遅れると、命の危険につながる重要なテーマです。
そこで、「報道ガイドライン」を作成いたしました。
どうか、ご一読いただき、当事者が不安を感じることのない報道をしていただけるようにお願いします。
1.取材するときのお願い
当事者(同居親など)に取材するときのお願い
同居親などの取材を受ける人(取材対象者)は、相手方からの攻撃の不安やDV・虐待・ポストセパレーションアビューズなどによる心身の不調を抱えながら取材に応じています。取材する際は、以下の5つのポイントに注意して、不安・負担の軽減、二次加害をしないなどの最大限の配慮ををお願いします。
1.取材にあたって、目的・報道の見通し等についてきちんと情報提供し、承諾を得る。
2. 当事者のプライバシー保護に関して、具体的に確認を取る。
(実名は、相手方を含めださない、顔は映さない、声は変える、プロフィールが特定されないように注意するなど)
3.報道される内容について事前に取材対象者に確認する。
4.取材対象者が了承できない状況になれば報道を取りやめる。
5.報道内容に問題があれば取材対象者の意見を聞いて訂正の報道をする。
2.DV・虐待に関する基本的認識について
離婚後共同親権について報道するにあたって、二次加害につながらないよう、DVや虐待について以下のような基本的に認識しておくべき点をご理解いただき、取材・報道をお願いします。
1. DVは身体的DVだけではなく、精神的、経済的、性的DVなど様々な種類がある。モラルハラスメントなど精神的なDVは客観的な証拠を提示すること が難しいことも多いが、被害者にとっては離婚後も長期にわたって心身に大きなダメージを与えること。
2. DV・虐待被害者はDV・虐待などのトラウマの影響で自己肯定感が低下していたり、恐怖や不安から相手に従うしかないと思わされていたり、解離性健 忘などで重要な記憶であっても覚えていないこともある。被害者の証言に一貫性がない、矛盾しているように思われることがあるかもしれないが、DV・虐待のトラウマ反応として理解する必要がある。また、加害者の攻撃や追跡を恐れて公に発言できないことも多い。
3.DV・虐待の加害者は自分が加害者であると自覚することはなく、むしろ被害者であるかのように認知が歪んでいることも多い。自分の考えが正しく、相手を自分の思い通りに支配することを当然と思っているので、対等な関係で話し合い・折り合うことは困難である。一晩中、責められて寝ることができなかったというエピソードはDV・虐待被害者からよく聞かれることである。このような関係性において話し合いによる解決は不可能といえる。
4.DV・虐待の加害者は上記のような傾向があるため、DV・虐待から安全な環境に逃れるために別居・避難した相手方に対して、執拗な追跡や攻撃を行うことが多い。その執拗さは法的な手続きを延々と繰り返すことなどに現れ、被害者を長期にわたって追い詰めている。
5.家庭内でDVがあることは子どもにとっては面前DVという心理的虐待であり、DV環境にとどまることは子どもへのネグレクトにあたる。子どもへの虐待を防ぐため・子どもの養育環境を守るためにも、DV被害にあっている親が子連れでDV加害親から離れることは必要なことである。
3. 共同親権に関する報道でよくある事実誤認について
共同親権について事実とは違うのに誤解を招くような報道がされていることがあります。
以下のような事実誤認に基づく報道はするべきではありません。
特に、DVの有無・態様や裁判の判決内容など背景情報をきちんと取材することが重要です。
1 .「虚偽もある。DVではないのにDVだと訴え、子どもを連れ去る親がいる。」
→モラハラなどの証拠を残すことが難しい精神的なDVもDVであるのに、ケガをするなどの身体的DVのみをDVととらえているのではないでしょうか。DVの判定は難しく、虚偽と決めつけるのは間違いです。また、DV・虐待加害者の自傷・自死、抑うつは珍しいことではなく、むしろ典型的な行動です。別居親が自死したからといって「連れ去り」被害が事実であったという証明にはなりません。
2 「DVだと言われ子どもと会わせてもらえない別居親や、別居親と会えずに苦しむ子どもがいる。」
→面会交流調停などをして、離婚後も親子が会っているケースはたくさんあります。面会交流調停や審判などの方法もあるのに会えていないのであれば、調停申立てなど相応の手段を取っていないことが考えられます。また、裁判所が調査の上、面会を禁止すると判断する場合や、子ども自身が面会を拒んでいる場合もあります(一方で、子どもが拒否しているにも拘らず面会が強制されるという別の問題も起きています)。
子が自ら連絡し会える状況になれば会うこともできます。一方で、子どもが面会を望んでおり同居親が受容していても別居親側の理由(再婚、面会拒否、音信不通等)で会えないケースもあります。そうした個別の事情を考慮せず、統計的な面会交流の実施割合や回数などを示して「これだけの子どもが会えていない」などと言うことに意味はありません。
3 「「特に、国際結婚で子どもを日本に連れ去られてしまった外国人の別居親が苦しんでいる。」
→ハーグ条約加盟前か加盟後によって状況も変わっていることに配慮が求められます。加盟後は元の居住国に戻す取り扱いがされています。この点の取り扱いは諸外国と日本は大きな違いはありません。
4 「共同親権の導入によって上記のような問題は解決する。」
→共同親権と面会交流は別の問題です。立法過程で面会交流促進のために共同親権にするといった論議は全くありませんでした。また、一方で、離婚後も共同親権となると、離婚後もDV・虐待が継続するという新たな深刻な問題が増加します。
5 「別居・離婚しても、両親から愛されることが子どものためである。」
→ひとり親にも、死別家庭・養子縁組など、様々な事情があり、ひとり親による養育を否定することは多様な家族に対する差別につながりかねません。また、関係性が良好でない両親に養育されることは紛争に子をさらすことにつながり、子の利益になることは例外的でしょうし、いわゆる「片親疎外症候群」などは国際的にも医学会で根拠がないと否定されていることを踏まえてください。
6「国際的には共同親権が当たり前で日本は遅れている」
→海外と日本とでは、家族(夫婦・親子)のあり方に関する実態や考え方が異なり、法制度や法概念も海外と日本とでは違います。また、日本のようにまだまだ「母親によるワンオペ育児が主流」である国と「両親で一定育児を共同で担っている」国とでは根本的に状況が違います。